第152回『デス・バレット』

荒野のサイケデリック・ハードボイルド

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『デス・バレット』
(Laissez Bronzer Les Cadavres)
2017年:フランス、ベルギー
監督:エレーヌ・カテト、ブルーノ・フォルザーニ


 残酷マカロニ・ウェスタンを鈴木清順テイストで煮込んだような、ハードボイルド犯罪映画の変化球的傑作。1960~70年代的なサイケデリック・アート感覚と渋いハードボイルド・タッチを、これでもかというくらいの過剰なフェティシズムで突き詰めた異色作だ。

 舞台は人里離れた廃村。そこに一人で暮らす女画家、その愛人である落ち目の作家、女画家の弁護士、この弁護士が手引きした金塊強盗三人、そして突然押しかけてきた作家の妻子と子守女……ほとんど偶然に一つの場所で過ごすことになったこの九人だが、そこに金塊強盗を捜査中の警官二名が現れたことから、廃村は一気に血みどろの殺し合いの場へと変わる。

 ストーリー自体はシンプル過ぎるほどシンプルで、ほとんど小さな廃村の中だけで展開される、ある種の密室劇的なバイオレンス・アクションと言える。登場人物たちの背景はほとんど描かれず、台詞での説明もほぼ皆無。唯一、本編中の随所に散りばめられた女画家の謎めいた回想シーンだけが、女画家とその愛人の作家の過去の関係性に触れているが、その尽くが前衛的かつサイケデリックな抽象的アート映像の洪水なので、ハッキリとした物語をそこに見出すことは出来ない。

 序盤、金塊強盗のシーンを徹底的に乾いたタッチでテンポよく描き(オープニングからこの強盗シーンまでの流れがシビレるかっこよさ)、強盗たちの隠れ家となる廃村に警官二名が現れていきなり銃撃戦に発展し、そこから密室劇的なバイオレンス・アクションが展開されてゆくまでの流れも非常に早い。話の骨子は極めてシンプルで、悪く言えば味も素っ気もなく、ごくごく一般的に言われるような意味でのドラマ性も極めて薄い。

 が、監督二人は、このどこまでもシンプルで乾いた密室バイオレンス・アクションに、「とにかくアーティスティックでキメッキメのかっこいいカットだけを集めて、残酷マカロニ・ウェスタンを一本撮りたいんだ!!」という意気込みの映像的フェティシズムを徹底的に盛り込み、奇々怪々、摩訶不思議な、まるで映像ドラッグのようなハードボイルド犯罪映画を作り上げた。

 セルジオ・レオーネがLSDをキメたらこういう映像を生み出すんじゃないか? というような美しさ、かっこよさの映像の荒波が次から次へと押し寄せる。

 乾いたハードボイルド・バイオレンスとして始まり、強盗たちと警官の殺し合いが泥沼化し、巻き込まれた人物たちの思惑や裏切りなども錯綜してゆくに連れ、現実と非現実の境界線も消失してゆき、過激なコントラストの妄想と暴力がスクリーン狭しと炸裂する。

 レオーネ作品を意識したと思われる極端な寄りの画が多く、ジャンプカット的な表現もやたら多いので、起承転結の流れや登場人物たちの位置や距離感が分かりづらいところもあるが、これはもう作り手の映像的欲望が大爆発した(好き嫌いのハッキリ分かれる)作品として、ほとんど即物的・生理的に享受するしかないだろう。

 私はどちらかといえば、あまりアートアートした映像表現で押し切るような映画作品は好きではない。「前衛的」「観念的」なんて言われるタイプの作品が最も苦手なのだが、本作『デス・バレット』に関しては、自分の中のギリギリのラインで、苦手さよりも生理的に感じる画のかっこよさ、美しさの方が勝った作品と言える(この文章を書いている時点で、既に劇場で3回見ている)。

 劇中で主観的な回想(妄想)シーンが何度も描かれる女画家以外は、目立った特異性のあるキャラクターは出て来ないが、個人的に好きなのは若い子守女。彼女がいちばんの部外者なのだが、もともと性衝動と暴力性を同線上に内包した危険な性分の持ち主で、強盗と警官の殺し合いのどさくさの中で偶然ピストルを拾い、そこから一気に彼女の内包していたものが解放される。強盗の一人が持っているマシンガンを見ながら、その銃弾にハチの巣にされながら自身の衣服が吹き飛んで全裸状態になる、というような妄想に耽り、強盗を肉体的に誘惑したりもする。

 そもそもこの作品自体、全編に渡ってエロスと暴力を絡めた表現が多い。セックスと獣の屍肉と銃弾と死の臭いが、作品のそこかしこで交錯する。特別に「文学的」「哲学的」というほどではないが、セックスと暴力が幻想的に交錯する感覚も、1960~70年代的なアート感覚へのオマージュなのだろう。なかなかどういう層の映画ファンに推したらよいのか分からない作品だが、やはり「風変わりな残酷マカロニ・ウェスタン」と説明するのがいちばん妥当か。好き嫌いのハッキリ分かれる作品だと思うが、興味のある方は是非ともこの美しい映像ドラッグ体験を味わってほしい。

 

(2019年6月21日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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