第149回『ザ・フォーリナー/復讐者』

情け無用のハードボイルド・ジャッキー

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『ザ・フォーリナー/復讐者』
(The Foreigner)
2017年:イギリス、中国、アメリカ
監督:マーティン・キャンベル


 「怒らせてはいけない人間を怒らせてしまった」「敵に回してはいけない人間を敵に回してしまった」という、何らかの要因で「眠れる獅子」を起こしてしまう(覚醒させてしまう)シチュエーションのバイオレンス・アクションは、長い映画史の中で既に一つの定型ジャンルと言えるほど数多く作られていると思うが(復讐譚では特に多いパターンだと思う)、本作もまさにこのシチュエーションをハードボイルド・タッチのバイオレンス・アクションとして渋く渋く作り込んだ傑作だ。

 『影の軍隊』(1969年)×『110番街交差点』(1972年)といった趣で、「善」対「悪」というよりも、登場人物それぞれの「立場」と「落とし前」の話を、ポリティカル・サスペンスを絡めたシリアス志向のアクション映画として、一人の男の復讐譚を主軸に描いている。この路線としての目新しさが特にあるわけではないが、過去に使い古されたベタな内容であっても、やはり丁寧に作り込めば質の良い作品に仕上がる、ということを本作は見事に示している。

 本作において最も特筆すべき点は、主演であるジャッキー・チェンの起用の仕方だろう。ジャッキーといえば、やはりどうしたってあのコミカルでアクロバティックなアクション・スターとしての印象が強く、実際、多くの作品でそういうキャラクターを演じてきたわけだが、本作はそんなジャッキーから徹底的に「ジャッキーらしさ」(つまりはコミカルさとアクロバティックさ)を排除し、どこまでもシリアスで非情なハードボイルド・タッチのキャラクターとして掘り下げている。

 本作におけるジャッキーのキャラは、超人的なカンフーとスタントで悪い奴らを懲らしめるという、いつもの見慣れたキャラではなく、基本は善良かつ理性的ではあるが、一度殺ると決めた相手は容赦なく確実に殺りに行く(言わばパニッシャーみたいな)キャラで、アクションもアクロバティックなものではなく、より実戦的なコンバット・アクションを主体とした演出が用いられている。

 ストーリー自体は至ってシンプルで、過激派の爆弾テロに巻き込まれ、娘を亡くした主人公クァン(ジャッキー・チェン)が、かつて特殊部隊員であった技術をフルに活用し、テロの実行犯とその背後の関係者を容赦なく追い詰めて行く、というもの。クァンの復讐譚を主軸としつつ、北アイルランド紛争を背景としたポリティカル・サスペンスの要素も絡めて、まさに『影の軍隊』のようなドロドロの内ゲバ、裏切りのドラマも繰り広げられる。

 過去にも当然、ジャッキー主演のシリアスな作品はいくつも作られたと思うが、本作では、(撮影当時)63歳という彼の年齢が、そのまま演技としての渋みに見事に反映されており、このキャラクターを演じるにあたって、絶妙のタイミングであったと思える。劇中、ジャッキーの台詞はかなり少なく、喜怒哀楽もほとんど表に出さないような非情かつ悲愴な復讐者としての役柄なので、俳優ジャッキー・チェンの(アクション以外での)抑えた演技の素晴らしさも堪能出来る。

 中学生の頃に『コップランド』(1997年)を見て、主演のシルヴェスター・スタローンの肉体派としてだけでない繊細な演技力に初めて触れ、それまでのスタローン像がガラリと変わってとても新鮮だったが、『ザ・フォーリナー』におけるジャッキーにも、まさにそういう新鮮さを感じる。

 ジャッキー・チェンは子供の頃から好きだが、しかしながら、個人的に最も愛着のある非情なハードボイルド・バイオレンスの世界とは縁遠い存在だとも思っていたので、まさか今になって、自分の大好きなハードボイルド・バイオレンスの世界で、非情な復讐者として敵を確実に殺りに行くジャッキーの姿を堪能できるとは思わなかった。本作は、パブリック・イメージとは違う非情かつハードボイルドなジャッキーを見せる、ということに見事に成功した傑作と言える。

 

(2019年5月21日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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