第144回『ハングマンズ・ノット』

キチガイ、暴力、美味そうなメシ、メシ、メシ!!

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『ハングマンズ・ノット』
2017年:日本
監督:阪元裕吾


 サイコパス殺人鬼 vs キチガイ不良兄弟の血で血を洗う抗争劇を、ダイナミックかつクールな暴力描写と、ヒリヒリとした黒い笑いで描破した、純正バイオレンス映画の傑作。当時、芸術大学の学生であった阪元監督が低予算で撮り上げた自主映画(初の長編作品)だそうだが、暴力映画作品としてのクオリティーの高さはかなりのものだ。

 学生でバイトもしている、それなりに社会性のあるサイコパス殺人鬼・柴田は、電車の中で彼の奇行をスマホで盗み撮りした(そしておそらくネットに流した)若い女性をストーキングし、彼女の誕生日に血の惨劇を繰り広げたり、バイト先で態度の悪い客とトラブルになり、交番へ連行されそうになった際に警官のピストルを奪って警官を射殺したり……という異常な日々を送っている。

 ある日、柴田は夜道で不良少年とトラブルになり、警官から奪った銃で少年を撃ち殺してしまう。そしてこの少年が泣く子も黙るキチガイ不良兄弟・影山兄弟の可愛い舎弟分であったことから、柴田と影山兄弟率いる不良グループとの壮絶な殺し合いに発展する。

 柴田もかなりのキワモノだが、対する影山兄弟も、強盗・強姦・殺人は朝飯前という度が過ぎたキチガイだ。ここにさらに犯罪請負のプロの親子や、胡散臭さ大爆発の学生慈善サークルなども加わり、暴力とブラック・ユーモアの絨毯爆撃で、ラストまでの約90分を一気呵成に突っ走る。

 暴力描写に関しては、『ヒメアノ~ル』『ディストラクション・ベイビーズ』『日本で一番悪い奴ら』といった2016年産の日本の暴力映画にダイレクトに影響を受け、それらをさらに凶暴にしたような作品を撮ろう、という意識があったと阪本監督がキネカ大森でのトークショー(「第5回 夏のホラー秘宝まつり2018」)で語っていたとおり、情け容赦ない残酷さに充ちたリアル・バイオレンスを、これでもか、これでもか、と徹底的に見る者に叩きつける。

 それは単にスプラッター的な血糊の多さやグロテスクさに終始するのではなく、犯罪映画としての生々しさや、アクションとしてのクールな美しさ、ブラック・ユーモアとしての笑いの要素とのバランス、そしてリアリズムの向こう側に突き抜ける映画的嘘のダイナミズム等々を全て加味した上での、かなり芸の細かい(作り込まれた)暴力表現の連続で、一瞬たりとも飽きさせない。

 とにかく全ての暴力描写が素晴らしいのだが、その中でも特に瞠目すべきは、少年院から出てきたばかりの影山兄弟とその舎弟たちが、路上で何の罪もない見ず知らずの女子高生を拉致してアジトへと連れ込み、女子高生にシャブを打ってから強姦し(このシーンの胸クソ悪さは尋常ではない)、そこからさらに凄惨な暴力シーンへと発展していく流れを、驚異的なワンカット長回しで捉えたシーンだ。これは5テイクほどを要したそうだが、むしろよく5テイクでこのワンカット長回しの暴力シーンを撮り上げたものだ、と驚嘆するばかりだ。

 全編に渡り、凄惨でキチガイじみた暴力描写が目白押しの本作だが、平行してブラック・ユーモアとしての笑いも絶妙なタイミングでガンガンぶち込んでくる。そしてこの暴力と笑いと、さらにリアリズムの向こう側へ一気に突き抜ける映画的嘘のダイナミズムを、一つのシーンの流れの中に見事に集約させているのが、影山兄弟が死んだ舎弟の少年を弔う葬式のシーンだ。

 現時点で本作を三回見ているが、やはり初見時からこの葬式のシーンで一気に心を鷲掴みにされた。映画には常にリアリズムの向こう側に突き抜ける契機となるようなシーンが必要だと思っているが、本作においてはまさにこの葬式のシーンがそれに当たる。このシーンを契機として、本作は単に残酷で苛烈な暴力映画というだけではない、さらに一段深い表現領域へと見る者をいざなう。

 登場人物としては特に影山兄弟のキャラ造形が素晴らしい。兄シノブの方が漫画的にデフォルメした(『ザ・ワールド・イズ・マイン』のモンちゃんを思わせるような)狂気性・暴力性を前面に押し出したキャラであるのに対し、弟アキラはどこまでも「素っぽい」(実際にいそうな不良の)厭さを醸し出しており、両者のバランスがかなり巧いこと噛み合っている。

 その他、細かな演出で注目したい点は、血みどろの暴力の合間合間に挟まれる食事の描写。たこ焼き、カレー、カップ麺、出汁がよく出ている鍋、ピーナッツバターを塗りたくったトーストなどなど、本作には美味そうなメシのシーンが何度も出てくる。柴田が向かい来る敵三人を皆殺しにし、返り血まみれになったまま目の前の鍋を無言で食べ始めるシーンは、暴力映画におけるフード描写としては実に味わい深い名シーンだ(全身全霊で暴力を振るう人間はとにかく腹が減るのだ)。

 『ハングマンズ・ノット』というタイトルについては、脚本・主演(柴田役)の吉井健吾氏が先述したトークショーの際に経緯を説明していた。いわく、吉井氏が好きなバンド、スリップノットのようなタイトルを付けたいと思った、ということが発端らしい。

 「スリップノット」は動物の狩りに使うトラップの縄の結び方のことで、「ハングマンズノット」は絞首刑の縄の結び方のことだそうである。そして影山兄弟も柴田さんも、いつかは死刑になる、という二重の意味合も込めているとのことで、柴田が劇中ずっとマフラーをしているのも、絞首刑の縄が常に首にかかっていることの隠喩なのだそうだ。

 

(2018年9月5日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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