第139回『共犯者』(1999年)

90年代日本産ハードボイルド映画の最高峰

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『共犯者』
1999年:日本
監督:きうちかずひろ


 代表作『ビー・バップ・ハイスクール』で知られる漫画家・小説家・映画監督きうちかずひろによる、90年代日本産ハードボイルド映画の最高峰。きうち監督の長編映画(Vシネマ)デビュー作『カルロス』(1991年)の続編で、主演の竹中直人をはじめ出演者は何人か同じ役のまま続投しているが、前作とはテイストが全く異なり、これ一本の独立した作品として見ていいように思う。

 前作『カルロス』は派手な銃撃戦をメインにしたハード・アクションという感じで、主人公カルロスのキャラクターもいかにもラテン的な血の煮えたぎるような狂犬として描かれていたが、その続編である本作は、作品自体のテイストもキャラクターのテイストも全く違う。

 本作は無駄な贅肉を徹底的に削ぎ落とした燻し銀テイストで、映画全体のトーンもキャラクター設定も渋く抑えた静謐なタッチに大きく変更されている。前作『カルロス』がメラメラと燃え上がる真っ赤な炎だとすれば、続編である本作『共犯者』は、月下で静かに揺れる青い炎だ。

 かつて、日本のヤクザ組織・山城組との抗争で、相手方を壊滅寸前にまで追い詰めた伝説のブラジリアン・マフィア、カルロス(竹中直人)。事件から8年後、彼はブラジル当局との裏取引によってシャバへと戻ってきた。カネもなく行く当てもない彼は、ふと立ち寄った蕎麦屋で、夫の暴力に追い詰められていた女、聡美(小泉今日子)を救ったことから、彼女と行動を共にすることに。

 そして、かつてカルロスの銃弾により人生を狂わされたヤクザ、梶(成瀬正孝)との奇妙な縁によって、カルロスは再びヤクザ組織との戦いに挑むことになる……。

 前作『カルロス』とは対照的に、本作は全編に渡り徹底して派手さを排除し、燻し銀かつ静謐なハードボイルド作品として渋く渋く作り込んでいる。ストーリーも至ってシンプルで、要はベタベタな西部劇テイストを、90年代末期の日本を舞台にした犯罪映画として再構築したものと言える。

 同じきうち監督による『鉄と鉛』(1997年)も実に素晴らしいハードボイルド作品だが、『共犯者』はそこからさらに驚異的に「深化」した作品になっている。

 『鉄と鉛』ではまだVシネマ的なハード・アクションとしての、ある種の「粗さ」のようなものがあったが(もちろんそれ自体も魅力の一つではあるが)、『共犯者』は先述したとおり、徹底的に無駄な贅肉を削ぎ落とし、必要最小限のアクションと必要最小限の台詞、そして必要最小限のドラマ性でもって、男臭いハードボイルドの世界を静謐で美しい詩的世界の領域にまで昇華させている。

 また、本作はヒロインの描き方も素晴らしい。

 この手の男臭いハードボイルド・アクションでは、ヒロインは終始か弱く守られるだけの存在になりがちだが、本作では、最初はDV夫の暴力に怯えるだけだった聡美が、カルロスに「仲間」として扱われることによって、次第に自ら戦いへと臨む強さを見せるようになる。

 カルロスは「変わらない」「ブレない」男だが、聡美はそのカルロスとの出会いによって、怯えるだけの人生から脱し、自らの意志で立ち向かう強さを体得する。カルロスと聡美の間に甘ったるい恋愛要素は一切ない。あくまで「仲間」としての共闘的な意識の結び付きによって、徐々にそのつながりが強いものになっていく、というふうに二人の関係性の推移が描かれる。

 二人の間に安易に「泣き」の要素が入ってこないのもイイ。腕力のあるなしに関係ない、どこまでもイーブンな人間性へのリスペクトで成り立った関係性なのだ。

 作品のタッチ自体も徹底的に燻し銀だが、役者たちの演技もまたかなり抑えたものになっている。これは大正解だ。特に主演の竹中直人は、どちらかといえばデフォルメの色濃い演技のイメージが強いが(前作『カルロス』では完全にこのノリだった)、本作ではよほど監督が徹底したのか、台詞も少なく、必要最小限のリアクションでもって実に渋い演技を見せている。

 竹中だけでなく、小泉今日子、内田裕也、岩尾正隆、成瀬正孝、山西道広、江幡高志、マコ岩松、北村一輝、大沢樹生、徳井 優、諏訪太朗などなど、かなりクセのある濃いメンツが集まっているが、この顔ぶれに徹底して燻し銀な演技をさせることで、全体的にキリッと引き締まった作品に仕上がっている。特に内田裕也&大沢樹生による殺し屋コンビ、ギリヤーク兄弟は、超絶無国籍な漫画キャラである上に、内田裕也が完全に内田裕也そのままのロックンロールな喋り方で臨んでいるにも関わらず、その徹底的に抑えた演出によって、見事に引き締まったクールな存在として、渋く渋く輝いている(リアリティーラインのギリギリの綱渡りに見事成功したキャラ造形だ)。

 先述した『鉄と鉛』や石井隆監督の『GONIN』(1995年)などに比べると、90年代の日本映画におけるハードボイルド作品として、『共犯者』は今一つ知名度が低いように感じるが、しかしながら私は、本作こそが90年代の日本産ハードボイルド映画における最高峰であると思っている。

 

(2017年10月19日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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