第129回『ちはやふる 上の句/下の句』

熱血! かるたバカ一代

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『ちはやふる 上の句/下の句』
2016年:日本
監督:小泉徳宏


 予告編を見た時点では全くノーマークだった本作だが、男臭いアクションや骨太なスポ根映画が好きな映画マニアたちの間でかなり話題になっていたので、「まさかなぁ」とは思いつつも、一応は見ておこうくらいの気持ちで映画館へ足を運んだら、こちらの予想を遥かに上回る熱いサムシングに満ちたスポ根青春映画の傑作であった。

 本作は、競技かるたを通して成長してゆく高校生たちの瑞々しい姿を、どこまでもストレートなスポ根青春ものとして描いている。へんなヒネリやハズしは一切なく、恥ずかしくなるほどにド直球な「スポ根あるある」「青春あるある」を敷き詰めながら、まさにベタ一本で勝負している。

 特にこれといった斬新さはないし、過去に散々使い古されてきた「あるある」要素ばかりで構成されているのだが、しかしこの旧時代的なベタベタな題材も、きっちり丁寧に作り込めば、21世紀の今でもここまで面白い作品になるのだ、ということを本作は見事に証明してみせた。

 前編(上の句)と後編(下の句)に分かれており、ストーリー的には地続きになっているが、双方のテイストは少しばかり異なっていて、それぞれ一本ずつ独立した作品として見ても楽しめる。

 『上の句』は、生粋の「かるたバカ」である主人公・千早(広瀬すず)が、高校入学を機に「かるた部」の結成に奔走し、その熱意で四人の部員をかき集めるところから始まる。千早を含め、この主要メンバーたちは、一人ひとりは世間一般からはみ出したポンコツばかりなのだが、しかしそれぞれの特殊能力を活かし、皆で力を合わせればどんな苦難も乗り越えられる、というブラザーフッドを軸にした、「出発」「団結」「上昇」の成長物語が瑞々しく描かれている。

 この五人の主要キャラの描き分けも、実にシンプルながらきっちり丁寧に描き分けられているので、いちいちその背景を説明しなくとも、各々のキャラが無理なくスッとストーリーに入ってくるし、見ているこちらも各々のキャラの立ち位置と役割をすんなりと理解出来る。

 言うなればこの五人のキャラ分けは、戦隊ヒーローもののそれとほとんど同じだ。千早(情熱=レッド)、太一(理性=ブルー)、肉まん(陽気=イエロー)、机くん(頭脳=グリーン)、奏(情緒=ピンク)といった感じか。

 彼らは、厳しい特訓や試合を重ねてゆく中で、「チームワークとは何ぞや?」ということを肌で覚えていく。終盤の団体戦では、千早の天才的なプレーも、他のメンバーの地固め・支えがあって初めて活きてくる、という重要性にメンバー全員が気付かされる。それを敵から学ぶのだ。

 本作はまさにシンプル・イズ・ベストとしか言いようがないストレートな成長物語であるが、そんな中で主人公たちの「人間的な弱さ」とその葛藤もしっかりと掘り下げられているのがとても良い。そこがしっかりと描き込まれているから、スポ根もので最も重要な「でもやるんだよ」精神がより活きてくる(「神に見放された」太一の葛藤なんかは特に印象深い)。

 『下の句』の方は『上の句』とはまたちょっと違ったテイストのビターさがあり、主人公たちが「イノセンスの喪失」に向き合う話になっている。ずばり「何のためにかるたやってんの?」という葛藤が主人公たちの想いをグラグラと揺さぶり、それに伴い彼らのブラザーフッドにもヒビが入り始める。そして千早の前には最強のかるたクィーン、若宮詩暢(松岡茉優)が立ちはだかる。

 『上の句』『下の句』双方とも、競技シーンはまさに格闘映画と言える迫力とかっこよさで、これだからアクション系の映画ファンたちも食い付いたのか、と納得がいった。全体的にとにかくシンプルな作りであるが、「ドラマとアクション」「緊張と緩和」のバランスが良く、ベタベタな三角関係の恋愛パートに関しても、いわゆる「恋に恋する」ような甘ったるさはなく、スポ根パートとしっかり相互作用のある、必然的な人間ドラマの一部として組み込まれている。

 本作はとにかくシンプルかつベタの極みみたいな作品なので、それだけ観客それぞれの「熱い想い」が投影されやすい作品だとも言えるだろう。熱い映画が好きな人間であれば、自分がこれまで見てきた数々の熱い映画をそこに投影してしまうはずだ。

 私にとって『ちはやふる』は、そのまま『超高層プロフェッショナル』(1979年)であり『ロッキー3』(1982年)であり『エクスペンダブルズ3』(2012年)であり、千早・太一・新の幼馴染三人の再会パートはそのまま『男たちの挽歌』(1986年)なのである。

 

(2016年5月16日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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