第12回『ジャガーノート』

職人映画の傑作


『ジャガーノート』
(Juggernaut)

1974年:イギリス
監督:リチャード・レスター


 私は恥ずかしながら仕事熱心な人間ではないし、出来ることなら一生遊んで暮らしたいと思っている不届き者であるが、しかしながら淡々と自身の本分を全うするタイプの、いわゆる「職人肌」「職人かたぎ」の人間に対して、ある種の憧れのようなものを持っている。

 もちろん自分はそんな徳の高い人間にはなれないし、そもそもなろうという意志なんてこれっぽっちもないのだが、そういった自身の本分を全うするタイプの人たちは尊敬している。

 本作『ジャガ―ノート』は、映画好きの友人に「これこそ職人の映画だ」と薦められて見たのだが、まさにプロの職人がその本分を全うする様を描いた、生粋の「職人映画」であった。

 大西洋をゆく豪華客船に時限爆弾がしかけられ、「ジャガーノート」と名乗る謎の犯人は乗客1200人の命と引き換えに50万ポンドの身代金を要求する。しかしお国は「テロに屈せず」の姿勢を貫いているため、1200人の命くらいでは金は払うつもりはない。

 そこで、無敗の爆弾処理職人ファロン(リチャード・ハリス)率いる爆弾処理班をパラシュート降下で乗船させ、タイムリミットの夜明けまでに爆破装置を解除させる作戦に打って出る。

 果たして、無敗の爆弾処理職人ファロンは、1200人の命を救えるのか!?

 とまぁ、あらすじだけを聞くと、いかにもありがちなパニック映画にしか思えないだろうが、本作の面白いところは、パニック映画なのに人々があまりパニックに陥らないところだ。

 普通だったら爆弾の存在を知った乗客たちが慌てふためいて二次三次の事故が起きたり、自分一人だけ助かろうとするズルイ男が真っ先に死んだり、最後まで生き残ってほしいようなイイやつが最後の最後で自分を犠牲にして死んでいったり、とにかくそういったドラマチックな展開をやたらに詰め込むのがパニック映画の相場というものだが、本作は終始徹底して燻し銀な演出で、そういった大仰なハプニング場面を一切排除している。

 この映画の主体は、あくまで主人公ファロンの爆弾処理職人としての本分を全うする姿にあるのだ。「1200人の命を救いたい」とか「爆弾魔が許せない」といった正義感から爆弾処理をするというよりは、「どんな仕掛けの爆弾でも絶対に解除してみせる」という爆弾処理のプロフェッショナルとしての戦いを描いている。

 白眉はやはり爆弾処理シーン。

 大げさなスリリングさはなく、あくまで淡々とジョーク交じりに作業を進めていくのだが、しかしその一見地味な作業の所々に、「一歩間違えば即死」の緊張感が張り巡らされ、こちらも思わず固唾を飲んで見守ってしまう。ハラハラ、ドキドキというよりは、ピリピリ、ヒヤヒヤといった感じだろうか。そしてファロンの職人としての哲学のようなものも、その淡々としたジョーク交じりの作業の中から少しずつ見えてくる。

 ファロンはただ爆弾という無機質な機械と戦っているのではなく、それを作った人間の頭脳と戦っているのだ。見えざる敵との無言の心理戦とも言えるだろう。ただ目の前にある仕掛けを分析するのではなく、その向こうにある爆弾魔の頭の中の図面を読み解きながら、数々のブービートラップを潜り抜け、その本丸である「信管」目指して突き進んでゆくのである。

 この一つ一つのトラップを潜り抜けてゆく緊張感あふれる演出は見事としか言いようがない。一歩間違えばドカンというこの緊張感の中で、あまり特殊な工具は使わず、ニッパー片手に戦うファロンの姿はまさに「職人」と呼ぶに相応しい。

 そしてそれと並行して、地上ではマクロード警部(アンソニー・ホプキンス)がジャガーノートを逮捕すべく駆けずり回る。この男もまた自身の本分を全うするタイプの男である。実はマクロードの妻子が問題の豪華客船に乗っているのだが、しかしその怒りや不安を決して表には出さず、刑事としての本分を全うすべく捜査に徹するのである。

 途中、妻子の事情を知った仲間に「辛いですね」と言われると、マクロードは「巡り合わせだからしょうがない」と淡々と答える。

 もちろんその心の裡にはどうしようもない不安や犯人に対する怒りが満ち溢れているのだろうが、このマクロードという男はそういった弱みは決して表には出さない。

 終始徹底した燻し銀の演出ではあるものの、それまで淡々と仕事をこなしてきたファロンがほんの束の間、感情的になって荒れるシーンがある。これもまたこの映画に深みを与えるいいシーンだ。ここで束の間ファロンの人間臭い部分を見せることによって、後半また仕事へ戻った時のファロンの職人ぶりがいっそう引き立って見える。

 そして終盤、この映画における最もこの映画らしいシーンがある。爆弾の入ったドラム缶に電動ドリルで穴をあけようとするファロンに、船員の一人が「振動は大丈夫なのか?」と不安そうにたずねるのだが、それに対してファロンはただ一言。

 「安心しろ、これで飯を食ってんだ」

 働く男の本分とは何ぞや、ということを知るにはもってこいの一本である。

 

(2011年4月1日)

プロフィール

プロフィール画像
ニックネーム
わがままコブラ
性別
生年月日
1984年5月2日
QRコード
携帯用QRコード
アクセス数
ページビュー数