第113回『アポカリプト』

走れ、殺せ、走れ!! 血と復讐のサバイバル・チェイス

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『アポカリプト』
(Apocalypto)
2006年:アメリカ
監督:メル・ギブソン


 野蛮な裸族たちが密林で命がけのチェイス・バトルを繰り広げる様を描いた、まさに野生版『バトルランナー』(1987年)。メル・ギブソンの歴史観や文化史観はあまり鵜呑みにしない方がよさそうだが、娯楽性に富んだ良質なサバイバル・アクション巨篇として楽しむには最高の一本だ。

 森の狩猟民族として平和に暮らしていた主人公ジャガー・パウは、ある日、父や兄弟たちといつものように狩りをしていると、自分たちの土地を横切ろうとする海の民族たちに出くわす。彼らは海で獲れた獲物をパウたちに差し出し、ここを通らせてほしいと言う。どうやら何者かに村を襲撃され、逃げ出して来たようだ。パウたちはこれを了承し、何事もなかったように自分たちの村へ戻るが、しかしパウの心には一抹の不安があった。そして彼のこの不安は、すぐに現実のものとなる。

 翌早朝、パウの村が武装した男たちの集団に襲われ、ほとんどの村人が生け捕りにされてしまう。と同時に、多くの村人が惨殺され、家々は全て焼き払われる。この武装した男たちは、マヤ帝国の都市部から派兵された奴隷ハント部隊だったのだ。パウは目の前で父を殺され、自らは捕まってしまうが、身重の妻と幼い息子だけはどうにか涸れ井戸に隠すことに成功する。がしかし、パウの妻子が、自分たちの力だけでこの深い井戸から這い出すことは不可能だ。険しい山道を連行されてゆく村人たち。ただただ妻子の身を案じることしか出来ないパウ。

 都市部へ到着すると、女たちはさっそく奴隷市場の競りにかけられ、男たちは雨乞いと疫病払いの生贄にされてしまう。パウは奇跡的にこれを免れ、今度は処刑を目的とした死のゲーム(ハント部隊による投げ槍、投石、弓矢の攻撃をかわしながら逃げるというもの)を強要されるが、これもすんでのところで処刑を回避し、深手を負いながらもどうにか逃げ出すことに成功する。この際、パウはハント部隊のリーダーの息子を殺してしまい、最愛の息子を殺されたリーダーは怒り狂った復讐鬼と化す。そしてここから、パウと武装ハンターたちとの壮絶なチェイス・バトルが始まる。パウは、屈強なハンターたちの追跡を振り切り、彼を待つ妻子を救うことが出来るのか……。

 狩猟民族たちのジャングルでの平和な生活と、それを一気に突き崩す残虐な襲撃を描いた序盤。巨大セットと膨大な数のエキストラによって再現された古代都市の壮観なヴィジュアルと、そこで行われる残忍でおどろおどろしい生贄の儀式を描いた中盤。そして険しい密林を舞台に繰り広げられる壮絶なチェイス・バトルを描いた終盤。

 ストーリー自体は至ってシンプルだが、アクションとしての見せ場の作り方がすこぶる巧く、特に後半のジャングルでのチェイス・バトルは、特にこれといった大技や派手な仕掛けがないにもかかわらず、センス・オブ・ワンダーをしっかりと有した手に汗握る肉弾戦でとことん楽しませてくれる。そしてこのアクションに骨太な重みを与えているのが、かなりハードな暴力描写だ。

 こと暴力描写に関しては、ゼロ年代以降はすっかり韓国映画のお家芸みたいになっているが、本作はその点、全く引けを取っていない。

 冒頭の狩りのシーンに始まり、阿鼻叫喚の地獄絵図と化す村の襲撃、古代都市での生贄の心臓えぐり出しや斬首、そしてメインのチェイス・バトルにおける主人公の趣向を凝らした殺しテクの数々。殺し方自体はかなり地味なものばかりだが、やはりその見せ方がすこぶる巧く、スピーディーなカメラワークとキレのある編集テクニックによって、最後の最後まで飽きさせない。

 敵が棍棒のような武器をフルスイングするのを、主人公がスライディングでかわすというシーンも、発想自体はよくあるものだが、主人公が最後の最後でかわし切れずに、ギリギリのところで額をスコンとかすってしまうという絶妙なヒネリを加味することで、過去に幾度となく見ているようなシーンであるにもかかわらず、印象深い力強さを持った見せ場に昇華されている。

 バイオレントな娯楽アクションの監督としては、少なくとも本作を見る限りでは、メル・ギブソンはかなりの腕前を持ったプロフェッショナルだ。特にヴィジュアルへのこだわりは素晴らしい。登場人物たちはもちろんのこと、ジャングルの撮り方(そのバトル・フィールドとしての使い方)や古代都市のスペクタクルはまさに圧巻と言うに相応しい。

 そして何かと縛りの多いハリウッドにあって、台詞を全篇マヤ語で通し、さらにはほとんど演技経験のない素人たちをキャスティングして作り上げたというのも驚きだ。こういう面でのフットワークの軽さやこだわりの強さも、彼の監督としての才能と独自性を示していると言える。

 

(2014年11月6日)

プロフィール

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ニックネーム
わがままコブラ
性別
生年月日
1984年5月2日
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