第111回『ステロイド合衆国』

もっとでかく、もっと強く、もっと速く!! ~超大国の「強さ」という自己欺瞞~

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『ステロイド合衆国 −スポーツ大国の副作用−』
(Bigger, Stronger, Faster / The Side Effects of Being American)
2008年:アメリカ
監督:クリス・ベル


 アナボリック・ステロイド(筋肉増強剤)を一つのアメリカ的象徴として捉え、「アメリカ人にとってのフィジカルなマッチョイズムとは何か?」、そしてその先にある「超大国アメリカにおける国家思想的なマッチョイズムとは何か?」ということを問うた、アメリカ人のアメリカ人によるアメリカ人のためのマッスル・ドキュメンタリー。

 本作の監督兼語り部であるクリスは、肥満一家の次男坊として生まれた。両親はもちろんのこと、男兄弟の三人とも皆が皆チビデブだったが、彼らの思春期はレーガン政権時代の真っ只中。テレビの向こうでは毎日のように、ハルク・ホーガンやシュワルツェネッガーやスタローンといったマッスル超人たちが、アメリカの「正義」のために悪党どもを蹴散らしていた。「強いことが正義、勝つことが全て」であるこの国で、チビデブであることはそれだけで敗北者を意味するのだ。

 そんな時代にあって、三人はほとんど必然的に肉体の鍛錬に励むようになった。長男はアメフト、次男三男はパワーリフティングで強くなるためにひたすら体を鍛えた。よりでかく、より強くなるための筋肉を無心に求めた。この国では、誰よりもでかく、誰よりも強くなることが、ただ一つの勝利への道なのだ。しかしこの道の半ば、長男と三男はステロイドに力を求めるようになった。次男のクリスだけは、どうしてもステロイドに頼りたくなかった。彼にはそれが偽りの強さに思えたからだ。彼が信じたリアル・アメリカン・ヒーローたちと同じ、あの嘘偽りのない鍛錬から生まれる「真の強さ」が欲しかったからだ。ところが現実は違った。

 ハルク・ホーガンもシュワルツェネッガーもスタローンも、そして大リーグのスター選手やオリンピックのメダリストたちまでもが、実は骨の髄までステロイド漬けだったのだ。

 ステロイドの過剰摂取のために、二の腕の力こぶが奇形のようになってしまった男は言う。

 「アメリカ人ならステロイドだろ」

 「シュワルツェネッガーはステロイドの象徴だ。打てばこの体になれるぞってな」

 「スター選手や芸能人は実際に会うとがっかりするんだ。画面で見るのと全然違う。画面に映るスターの姿は、俺たち自身の願望なんだよ」

 「アメリカン・ドリーム」とはまさにステロイドによって作られた偽りの強さであり、そしてこの国の「正義」もまた、己のコンプレックスを覆い隠すための安物のメッキでしかなかったのだ。

 本作はステロイドの問題を軸に、スポーツ界、製薬業界、政界、そして自身の家族へのかなり踏み込んだ取材を行い、超大国アメリカの自己欺瞞的な病巣を白日の下にさらしてゆく。監督兼語り部のクリスはあくまで反ステロイドの立場だが、しかし一方的にステロイドそのもの(あるいはその使用者たち)を悪者として否定するのではなく、実際的な薬剤としての効能と副作用を解説し、さらには肯定派、否定派、そして第三者側の意見も多角的・客観的に取り入れようと努めている。

 「嘘つきは成功しないと言うが、アメリカでは嘘つきしか成功しない。正しい道とベストな道が違う国アメリカ。2位は敗北と同じで、真のヒーローは常に勝利者だ。これがアメリカ。世界に誇る偉大な国。ステロイド国家とも言う。我が兄弟はステロイドへの依存を気にしない……これこそアメリカ人であることの副作用だ」

 ステロイドという存在を単なる薬剤として扱うのではなく、アメリカ人にとってのある種の「象徴」あるいは「思想」と捉え、その歪んだマッチョイズムを丹念に考察し、そこから客観的に問題を提起してゆく。「ステロイドとは何か?」という問いがそのまま「アメリカとは何か?」、延いては「アメリカ人とは何か?」という問いにつながってゆく。

 もはや強迫観念とさえ言えるマッチョ依存、ステロイド依存の観点から、超大国アメリカの「心の闇」を浮き彫りにさせた秀逸なドキュメンタリー作品である。


 



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『果てなき渇望』(草思社文庫)
増田晶文 著


こちらは2000年に書かれた日本におけるボディビルのノンフィクション。
本著に登場するビルダーたちは、皆それぞれに十人十色の肉体哲学を持っているが、
やはりアナボリック・ステロイドを使用しているビルダーたちの話は強烈だ。
『ステロイド合衆国』と併せて読むと、より理解が深まって面白い。

 


 

(2014年9月25日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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