第104回『フェイズIV/戦慄!昆虫パニック』

IQ200の黒い絨氈

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『フェイズⅣ/戦慄!昆虫パニック』
(Phase Ⅳ)
1973年:アメリカ
監督:ソール・バス


 本作は、ヒッチコック作品をはじめとする数々の名作映画のタイトル・デザインを作ったことで有名なグラフィック・デザイナー、ソール・バス唯一の長編劇映画監督作で、高度に知能が発達した蟻が人類に牙を剥く恐怖を描いたハードSFの傑作だ。


 種の繁栄と進化のための絶対的利他主義に貫かれた、まさに「一人はみんなのために」の究極形である蟻たちの「社会」が、もし人間と同じ、否、それ以上の知能を持って人類を襲い始めたら……という実にシンプルな内容。主要な登場人物はわずか三名のみで、ほとんど密室劇と言ってよい地味な作りであるが、ダークな終末観や急速に進化した蟻たちの脅威の描き方が感動的と言えるほどに凄まじく、邦題のサブタイトルから想像されるような凡百のB級パニック映画とは一線を画している。

 白眉はやはり蟻のシーン。本作は作り物でもアニメーションでもない本物の蟻を使って撮影している。しかも蟻の目線で描かれるシーンが多く、まるで『アニマル・プラネット』の質の高いドキュメンタリー番組を見ているような錯覚を覚えるが、しかしさすがは高名なグラフィック・デザイナーだけあって、画作りの美しさはかなりアーティスティックだ。

 ストーリーそのものは特にアート的要素は目立たないが、こと映像面においては、細かなカット一つひとつの構図にかなりアーティスティックなこだわりが見て取れる。中でも印象的なのは、一匹の蟻が眠っているヒロインの爪先から喉元あたりまでをツツツツツ……と這ってゆくシーン。これも蟻目線の超接写で撮られているのだが、妙齢の女性の透き通るような柔肌の上を、まるで愛撫でもするように一匹の蟻が迷いなく這い登ってゆくのである。これが数匹の蟻ではダメなんであって、「たった一匹の蟻が女の柔肌を犯す」……というこの何とも倒錯的な(それでいて決してグロではない)なまめかしさを持った演出はお見事としか言いようがない。

 本作はある種のモンスター・パニックものとも言えるが、しかし蟻たちは別に巨大化したわけでも攻撃力が増したわけでもない。変わったのはあくまで彼らの知能だけなのだ。ここらへんが本作の絶妙な面白さだと思う。常に組織的で利他的で機能的な蟻たちの統率力を前に、利己的で感情的で非合理的な人間たちは為す術もない。「万物の霊長」が体長わずか数ミリ~1センチ程度の「ミクロの知能」に滅亡の道を歩まされるというのだから、抜群に面白くも恐ろしいアイディアである。

 

 ジョセフ・サージェント監督の『地球爆破作戦』(1970年)やロバート・ワイズ監督の『アンドロメダ…』(1971年)と並ぶ、1970年代を代表する傑作ハードSF。一味変わったSFあるいはパニックものが見たいという方にはお薦めの一本。
 

(2014年7月1日)

プロフィール

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わがままコブラ
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1984年5月2日
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