第102回『インファナル・アフェアⅡ 無間序曲』

愛と憎しみの挽歌

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『インファナル・アフェアⅡ 無間序曲』
(無間道Ⅱ)
2003年:香港
監督:アンドリュー・ラウ、アラン・マック


 マフィア内部に潜入している香港警察の捜査官ヤン、そして警察内部へ潜入している香港マフィアのラウ、この二人の過酷な運命を中心に、血で血を洗うこの世の無間地獄を描く『インファナル・アフェア』三部作(監督は三作共にアンドリュー・ラウ&アラン・マック)。

 その二作目である本作は、一作目の前日譚を描いたものだ(時系列的に並べると、本三部作は『2』→『1』→『3』という順番になる)。

 『1』と『3』は共にサスペンス色の濃いクライム・アクションという感じで、(時系列的にも直結しているためか)作品の雰囲気にも統一感があるように思われるが、今回ご紹介する『2』は少しばかり毛色が違う。ある意味、本シリーズにおける番外編的な存在と言っていいかもしれない。

 ストーリーや登場人物などは全て『1』『3』へと直接的につながっていくのだが、本作はより男臭いノワール色を前面に押し出しており、作品の雰囲気は『1』『3』に比べ遥かに渋い。『1』『3」と同じサスペンスフルなクライム・アクションのノリを期待すると、少しばかり肩透かしを食うかもしれないが、どこまでも男臭く燻し銀なノワール感、ハードボイルド感が好きな人間(もちろん私も含まれる)にとっては、この二作目がやはり本シリーズ中でダントツと言えるだろう。

 本作は、1991年から97年の香港返還までを背景に、香港黒社会の血で血を洗う抗争劇と、その黒社会を壊滅せんと危険な捜査を行う警察側の戦いを描いている。

 物語は、香港黒社会最大の組織、ンガイ家のボスであるクワンが暗殺されるところから始まる。クワンを殺したのはラウという青年。彼はクワンの配下にいるサムというボスの手下だ。しかしラウにクワン殺害を命じたのはこのサムではなく、サムの妻マリー。彼女は、夫の出世を願うばかりに(そしてさらに裏の裏があるのだが)、クワン殺害をラウに命じたのである。夫のサムはこの事実を全く知らない。そしてラウは自分のボスの妻であるマリーに岡惚れしている。この一件の後、ラウは警察内部へスパイとして潜入するようサムに命じられ、警察学校へ。

 クワンの死後、彼の配下にあったサム以外の四人のボスが結託し、「もうンガイ家に上納金は払わない」と言い出すが、クワンの跡目を継いだ息子ハウが、四人それぞれの弱みを巧みに利用し、四人とも見事に自分の配下に収めてしまう。こうして、新たなボス、ハウの登場によって、香港黒社会は再びンガイ家が牛耳ることになった。

 黒社会の壊滅を念願としている香港警察の警部ウォンは、ハウが今回、抗争の一つも起こさずに上手く収めたこの状況に不満を抱いていた。そして、警察学校の首席でありながら、クワンの私生児(つまりはハウの異母兄弟)であることが判明したために、退学処分の憂き目を見る羽目になったヤンという青年に目を付ける。自身の境遇を恨み、自分は本当の善人になりたいのだと言うヤンに、ウォンはある提案を持ちかける。それは自身の境遇を利用して、黒社会内部へ潜入するというもの。ヤクザではなく善人(警官)として生きていきたいと切に願うヤンはこの提案を受け入れる。そしてハウの異母兄弟という身分を利用し、ハウの配下にあるサムの組織へ潜入することに成功する。

 こうして、真逆の立場でありながら同じ「スパイ」となった捜査官ヤンとマフィアのラウを軸に、愛と憎しみ、友情と裏切りの中でもがき苦しむ因果な人間たちの無間地獄が描かれてゆく。

 登場人物たちの関係性が複雑に絡み合っている上に、かなりのハイテンポでストーリーが進行してゆくので、正直分かりづらい部分も多いのだが、その複雑に絡み合った関係性の中で展開される人間ドラマは実に素晴らしく、義理と人情の狭間で多くの血が流される様は、まさに香港版『ゴッドファーザー』(1972年)だ。

 そして何より、本作はとにかく出てくるキャラクターが皆そろって男前(もちろんヴィジュアル面のことではない)というのがイイ。

 メインキャラの中で唯一の女性であるマリーでさえ、そりゃあもうめちゃくちゃに男前(女前?)なのである。夫の出世のためなら手段を選ばないが、根はどこまでも骨っぽく、人間としての筋は通っている。むしろ彼女に岡惚れしているラウの方が弱々しく見えてくるほどだ(ラウを突き放す時のマリーのド突き方が、これまためっぽう男前)。

 小物で狡猾な四人のボス以外は、ヤクザたちも捜査官たちも本当に男前ばかりなのだが、そんな中でも群を抜いているのがアンソニー・ウォン演じる静かなる鬼刑事ウォン。黒社会を壊滅させるためなら手段を選ばない冷徹な仕事人でありながら、同僚ルクとの友情(捜査でどちらが指揮を執るかをいつもトランプで決めるあたりが最高だ)、そして敵であり利用する相手でもあるサムとの独特の関係性(やはり友情めいた繋がり)においても、しごく人間味のある描かれ方をしている。

 あまり多くを語らず、感情もほとんど表に出さない、どこまでもニヒルなハードボイルド刑事。愛と憎しみ、友情と裏切りが激しく交錯する血みどろの無間地獄の中で、極力感情を表に出さず、ニヒルに立ち回るウォンこそまさにノワールな男前だ。

 男臭いマフィア映画、ノワール映画が大好きだという人には激しくお薦めしたい本作だが、同時に、本作に多大な影響を受けたであろう韓国産マフィア映画、『新しき世界』(2013年)も併せてお薦めしたい。時代は変われど、この手の映画は滅びないでほしいものである。

 

(2014年5月30日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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