第1回『バルスーズ』

過激でお茶目で無残で切ない 青春残酷ピカレスク


『バルスーズ』
(Les Valseuses)
1974年:フランス
監督:ベルトラン・ブリエ

 

 エロくて卑怯で暴力的で、いつも何かから逃げ回っていて、端から見れば時間の浪費以外の何ものでもない「自由」を振りかざしながら反抗的な態度を貫く嫌われ者。でもどこか憎めない愛らしさと切なさを持ち合わせている。そんな刹那的・退廃的な若者を描いた青春映画は古今東西、星の数ほど存在するが、最近はこの手の映画の過激さに驚くということもあまりなくなってしまった。

 しかし先日、何気なく見た本作『バルスーズ』に、そんな青春映画不感症の横っ面を思い切り張り飛ばされた。もう凄いの何のって、この『バルスーズ』に比べたら、『時計じかけのオレンジ』(1971年)もおとぎ話みたいなもんだし、アメリカン・ニューシネマなんて牧歌的もいいとこだ。今までこんな凄い映画を知らなかったなんて……。

 話の内容は至ってシンプルで、職に就かずにブラブラしながら、万引き・かっぱらい・自転車泥棒・自動車泥棒・無賃乗車・不法侵入・軽めの婦女暴行……と無為な日々を送る20代の悪友コンビが、いくつかの事件に巻き込まれながら当てどなく彷徨い続けるロードムーヴィーである。

 まぁこれだけなら、そこいらに転がっている青春映画と大差ない代物と言えるが、その演出も映像センスも音楽も、そして各エピソードは奇抜でありながら、全体的には最後まで青春映画としての普遍性を保っているストーリーテリングも、全てにおいて冴え渡っている。

 まずオープニングからして素晴らしい。寂れたアパートが建ち並ぶ中を、急ぎ足で歩く中年の太った女。その後を追う主人公二人(一人はなぜかスーパーの買い物用カートに乗っている)。半泣きで家路を急ぐ女の尻を触ったりしてビビらせながら、二人は女をどんどん追い詰めていく。そしてとうとう追い詰められた女は、助けを求めながら主人公二人に実に厭ぁ~な感じでなぶられる。恐怖のどん底で身もだえする女。ニヤニヤ、ネチネチ責める主人公二人。女の運命やいかに!?

 と、そこで場面がパッと変わって、主人公二人が怒り狂った住民たちに追いかけられている。

 二人は女から盗ったハンドバッグでラグビーごっこをしながら猛ダッシュで逃げていく。BGMにはジャズ・バイオリニスト、ステファン・グラッペリの軽快な音楽が流れる(本作は、とにかくこういった場面転換に用いるジャンプカットが絶妙で、その後も全篇に渡って似たようなジャンプカットが多用され、それが映画全体のリズムを作っている)。

 そんな主人公二人の悪行を実に厭ぁ~なネチっこさで描きつつも、背景は常に美しいのだから、これまた妙な気分にさせられる。街角であれ、田舎道であれ、海辺であれ、とにかく出てくるシーンの全てが絵葉書のような美しさだ。主人公二人がただ道をブラブラ歩いているだけの画でも、とにかく美しく、そしてビシッとキマっている。

 そして何と言っても映画の中盤、大女優ジャンヌ・モローが登場すると、映画全体の空気・質感がガラリと変わって、これまた素晴らしい。悪辣で下卑た若者二人の暴走を軽妙に描いていた前半から一転、哀調を帯びた陰影が映画全体を覆い始める。

 ジャンヌ・モロー扮する出所したての熟女に主人公の一人(ジェラール・ドパルデュー)が恋をし、最初は「あんなババアのどこがいいんだ?」なんて言っていた片割れ(パトリック・ドヴェール)も次第にその魅力に引き寄せられる。最初は小悪党二人を警戒していたこの女も、彼らが見せる優しさに次第に心を開いてゆく。

 人気のない海辺のレストランで三人が食事する様をレストランの外から撮ったシーンなどは、海風の音だけが聞こえる何とも言えない切ない美しさに胸が締め付けられる。

 圧巻は、片田舎の道に急停車した車中での濃厚過ぎる3P(この背景もまた鳥肌が立つほど美しい)。高齢ではあるが、さすがはジャンヌ・モロー、恐ろしくなるほどの色気で若造二人を激しく受け入れる(このへんの演出力は今村昌平のような骨太な凄みを感じさせる)。

 
そして後半はまた前半同様、どこまでが本気でどこまでが冗談かわからない軽妙なタッチに戻り、人殺しの片棒を担がされたりしつつ、悪友二人の当てどない旅はどこまでも続くのである。

 

(2009年6月21日)

プロフィール

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わがままコブラ
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生年月日
1984年5月2日
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