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誰も知らないプロローグ
物語屋


『物語、売ります。お代はあなたがおつけください。物語屋』。
ドーム形のテントが夕暮れ色にそまる頃、物語屋はため息をつきました。
長年、町ゆく人に物語を聞かせ、楽しませてきましたが、
年ごとに、お客さんの数はへるばかり。
「ここらで、店じまいとするか……」
その時です。どこか、見覚えのある少女がやってきたのは!
小さなお客さんは、切りかぶいすにちょこんとすわりました。
「メニューはいろいろ。お嬢さんは、
どんな物語がお好きかな」
「ううん。私があなたに、お話をしてあげたいの」
えっ? でも、一度は悪くないかな。
物語屋が、物語を聞いてみるのも──。
「むかし、なにより物語を聞くのが好きな男の子がいたの……」
少女は、ふわっと、微笑みました。
「だけど、男の子が物語の森で遊ぶのは、いつだって夜。なぜだと思う?
眠るのが、こわかったからよ。
ベットで聞く物語は、不思議の森の入口に続いてた。
夢の中で物語の続きを自由に楽しむの。
特技はそう、動物達との鬼ごっこ。花達のうわさ話に耳をかたむけ、
時には空だって飛んだわ」
「そうだった……夜の闇がこわかったぼくは、毎晩、
今は天国にいるすみればあさんから物語を聞いて、
ぐっすり、眠りについたんだっけ……」
うとうとしだした物語屋は、いつしか、
子どもの頃の夢の続きを見ていました。
目覚めると、少女はもう、どこにもいません。
朝もやにまじって、ほんのり、すみれの花の匂いがしました。
「心がほっとなる物語屋……続けてみるよ。すみればあさん……」

コニカミノルタ創作物語絵本展
創作童話集
『うまれたてのお話20』
(絵:シゲリカツヒコ氏)より──
物語屋


『物語、売ります。お代はあなたがおつけください。物語屋』。
ドーム形のテントが夕暮れ色にそまる頃、物語屋はため息をつきました。
長年、町ゆく人に物語を聞かせ、楽しませてきましたが、
年ごとに、お客さんの数はへるばかり。
「ここらで、店じまいとするか……」
その時です。どこか、見覚えのある少女がやってきたのは!
小さなお客さんは、切りかぶいすにちょこんとすわりました。
「メニューはいろいろ。お嬢さんは、
どんな物語がお好きかな」
「ううん。私があなたに、お話をしてあげたいの」
えっ? でも、一度は悪くないかな。
物語屋が、物語を聞いてみるのも──。
「むかし、なにより物語を聞くのが好きな男の子がいたの……」
少女は、ふわっと、微笑みました。
「だけど、男の子が物語の森で遊ぶのは、いつだって夜。なぜだと思う?
眠るのが、こわかったからよ。
ベットで聞く物語は、不思議の森の入口に続いてた。
夢の中で物語の続きを自由に楽しむの。
特技はそう、動物達との鬼ごっこ。花達のうわさ話に耳をかたむけ、
時には空だって飛んだわ」
「そうだった……夜の闇がこわかったぼくは、毎晩、
今は天国にいるすみればあさんから物語を聞いて、
ぐっすり、眠りについたんだっけ……」
うとうとしだした物語屋は、いつしか、
子どもの頃の夢の続きを見ていました。
目覚めると、少女はもう、どこにもいません。
朝もやにまじって、ほんのり、すみれの花の匂いがしました。
「心がほっとなる物語屋……続けてみるよ。すみればあさん……」

コニカミノルタ創作物語絵本展
創作童話集
『うまれたてのお話20』
(絵:シゲリカツヒコ氏)より──
プロフィール

- 略歴
- 石川千穗子(千穂子)
イシカワ チホコ
■日大芸術学部文芸学科創作コース卒業後、
児童物出版社編集者を経て、現在フリーライター。フリー編集。
■日本脚本家連盟で、金子成人氏と尾崎将也氏にシナリオを師事。
■日本児童文芸家協会理事。
■2021年より『児童文芸』編集長。
■2015年より『The College(ザ・カレッジ)表参道』にて、
ライター講座を担当。
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Ishikawa