第9回:「寒流 −銀行を手玉にとった女−」

流れ流れて冷たい闇へ


「寒流 −銀行を手玉にとった女−」
1983年:日本 (テレビ作品) 監督:富本壮吉

 不謹慎ながら梶 芽衣子の濡れ場目的で見ようと思った本作。たしかに芽衣子姐さんの色っぽい濡れ場はたっぷり拝見できたのだが、しかし小生のムスコは元気になるどころか終始ゲンナリ、、、考えてみればそれも当然のことである。だって松本清張原作だもの。

 主人公・沖野(露口 茂)は妻子あるエリート銀行マン。絵に描いたような“成功した中流”である。とくに自分から大きな賭けに出るという性格ではないが、大学の同級である上司・桑山(山口 崇)のコネなどもあってまずまずのエリート街道を歩んでいる。

 そんな沖野の前に現れた料亭の未亡人女将・奈美(梶 芽衣子)。彼女は大手銀行の支店長である沖野に、料亭を改装するための融資を申し込む。奈美を一目見た時から完全にポッポしちゃってる堅物沖野はもちろん融資を快諾。さぁ、ここからが清張劇場の始まりである。

 こんな形の融資が一度や二度で終わるはずがない。案の定、男と女の関係になった沖野と奈美。完全にぞっこんLOVEな堅物沖野は奈美の魔性に引きずられ、ずるずると冷たい闇の方へ流されてゆく。

 こうなればあとはもうお決まりのコースをたどるのみ。浮気するサラリーマンの定番、「今日は会議で遅くなる」を駆使し、夫の帰りを待つ妻を尻目に連れ込み旅館で連日連夜の床勝負。いやん、ばかん、そこはだめん、あなたと一緒になりたいわん、奥さんと別れてぇ〜〜ん、ああ〜〜ん、、、。

 こんな男の幸せが続くはずもなく、やっぱりカミさんにバレちゃう堅物沖野。当然、夫婦の絆は寒流の底へと押し流される。

 「あなた、私に別れて欲しいんでしょ?」

 しかしカミさんにだって女の意地というやつがある。

 「絶対別れてやるもんか、、、」

 この日から、ことあるごとに夫の裏切りを責める妻。子供の前であろうと容赦ない。「あ〜あ、あたしも浮気してやろっかなぁ〜」なんてな死の棘が、連日に渡り夫の胃の腑ををメッタ刺しにする。

 いかな身から出た錆とはいえ、これでは堅物沖野も気が滅入る一方である。そして悪いことというのは必ず続くもので、今度は困ったことに沖野の学生時代からの友人であり、仕事における良きパートナーでもあった桑山が奈美にポッポしちゃうのである。もう、やんなっちゃうね。

 堅物沖野に比べ自信家で野望も大きい桑山は、奈美を手に入れるために沖野を左遷。最初は桑山を拒否しているふりをしていた奈美も、沖野が使えなくなったとわかるとすぐさま桑山に乗り換える。もう、やんなっちゃうね。

 友人に裏切られ、奈美にも見放され、家族との溝も修正不可能。あげくはエリートの道も完全に閉ざされてしまった堅物沖野。全てを失った男に残されたのは裏切った友人に対する復讐心のみ。

 「俺はもう一生この寒流から浮き上がることはできない。もはや捨てるものとて何もない。こうなりゃもうヤケのやんぱち日焼けのナスビ。桑山の野郎に同じ辛酸舐めさせてやろうじゃないの!!」

 堕ちるとこまで堕ちてやっと守りから攻めに出た我らが堅物沖野。がんばれ沖野! 負けるな沖野! 金子の信雄、、、じゃなかった、桑山のタマとったれぃ!! ってんで、桑山と奈美の不倫関係と不正融資の実体を暴き、銀行内の反・桑山派の勢力に桑山を完全に潰させようという壮大な復讐を企てる。果たして復讐は成し遂げられるのか、、、堅物沖野の運命やいかに!?

 とまぁ、こんな感じで終始陰惨な話が続くのだが、しかし清張先生はどうしてこうも堕ちていく人間を描きたがるのか。そしてどうしてこうも堕ちていく人間の話が国民的人気を誇り、幾度となく映像化されるのか。それはおそらく清張の描く堕ちていく人間に、戦後ニッポンの中流意識の中で生きてきた多くの人間が共感できる部分、つまりは自身の闇をそこに見い出すことができるからではないだろうか。

 本作の主人公・沖野も、エリート銀行員ではあるが、正味のところはあくまで中流な人間である。彼には桑山のようなイケイケな向上心はなく、ごくごく一般的な“中の上”として、どうにかこうにかエリート銀行員としての暖流の中に身を置いてきたというだけの人間なのだ。本作の中盤、沖野は自分から銀行員という仕事を取れば、実は自分が何もできない無能な人間であるということに気づく。

 これは何もエリート銀行員に限ったことではなく、あらゆる中流の勤め人の中に巣食う普遍的な不安であると言えるだろう。元サラリーマンであった清張の作家としての真髄は、おそらくこの普遍的な中流意識の中で生きる誰しもが持つ不安感を、ちょっとした日常の亀裂から小説として具現化し得るところにあるのだろう。

 “一億火の玉”のキチガイ沙汰から一気に“一億総白痴化”という平和ボケの日常へとなだれ込んでいった戦後ニッポンの中流意識こそ、清張作品を最も強固なものにするリアリズムであり、それが我々の多くを惹きつけてやまないのである。

 追伸:こんな偉そうにぶっておいて、小生実は清張作品は1冊しか読んでません(しかも短編集)。





昨日の友は今日の敵。堅物沖野(左)とイケイケ桑山(右)。



出世作「女囚さそり」では男に騙され、その怨み節でスクリーンを真っ赤に染めた芽衣子姐さん。
本作では逆に男を手玉にとって破滅させるべっぴん毒婦を演じる。こんな美人になら破滅させられたい。



                                                 (2010年3月10日)


プロフィール

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ニックネーム
アンジー
性別
血液型
O型
生年月日
1984年5月2日
現住所
東京
自己紹介
政治経済スポーツ苦手。映画音楽本が好き。懐疑派の無神論者を標榜しつつも、テレビの占いなどで不安なことを言われるとかなり気にするタイプ。
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