第7回:「アギーレ 神の怒り」

ゆきゆきて神軍、狂気のアマゾン大冒険


「アギーレ 神の怒り」(Aguirre, Der Zorn Gottes)
1972年:ドイツ 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク


 コンラッドの小説「闇の奥」の舞台背景をヴェトナム戦争に置き換えた、フランシス・フォード・コッポラ監督作品「地獄の黙示録」('79)は、その内容よりも撮影現場の裏話の方が遥かに悲惨である。

 ジャングルの中に巨費を投じて作ったセットが台風に破壊されたり、主演のマーチン・シーンが心臓発作で倒れたり、マーロン・ブランドが激太りしたせいでアクション・シーンが撮影できなくなったりと、とにかくアクシデントに次ぐアクシデントの連続で、制作費はどんどん膨らむばかり、、、コッポラは「自分が自殺すれば、その保険金でどうにかなるんじゃないか」などと考えるまでに追い詰められ、発狂寸前であった。

 そんな状況をコッポラのカミさんは見事なメイキング作品「ハート・オブ・ダークネス 〜コッポラの黙示録〜」に仕立て上げた。これ、はっきり言って本編よりも面白いのだが、しかし、まぁ、これほどまでに苦労した結果が本編に表れていないというのは何とも口惜しいではないか。ダンナが発狂寸前にまで陥って作った作品が、カミさんの撮ったメイキングに勝てないなんて、あまりにも哀しすぎる。

 さてさて、その「地獄の黙示録」から遡ること7年余り、、、ドイツの鬼才ヴェルナー・ヘルツォークが、全く同じような内容の映画を、全く同じような体当たりジャングル・ロケで撮っていた。タイトルは「アギーレ 神の怒り」。ただ、この映画が「地獄の黙示録」と違うところは、撮影時の現場の血の滲むような苦労が、見事に作品に反映されている、否、否、否、というよりは、撮影時の苦労そのものが作品のドラマ性を突き抜けて、ほとんど作品そのものになってしまっているのだ。

 「それじゃあ、単なるドキュメンタリーじゃないの」なぞと言う人もあるかもしれないが、いやいや、まずは観ておくんなまし。度肝抜かれますから。この監督、頭にシャブ打ってんじゃないか、、、と心配になるほどの鬼気迫る体当たりロケ撮影で、暴走した人間が破滅してゆくまでを“淡々と”描いている(描いているというよりは、カメラで追っているといった方が正しいかもしれない)。

 時は1560年、征服者ピサロ率いるスペイン兵ご一行は、黄金境エルドラドを目指しアマゾン奥地を進んでいた。しかしアマゾンの自然はそんなに甘かない。食料もだんだんと底をつき、先へ進むのが困難になったご一行。これじゃあ、みんなで野垂れ死にだってんで、ピサロは40人の先遣隊を選び出し、その副隊長にドン・ロペ・デ・アギーレ(クラウス・キンスキー)を任命。

 さぁ、ここからが大波乱の幕開けである。

 ピサロの目が離れたのをいいことに、勝手に暴走し始めるアギーレ。隊長ウルスアの再三の制止にも全く耳を貸さず、挙句はウルスアを銃撃、、、唖然とする兵士たちを前に、「今日からわいが実質的な大将や。スペインなんてケチくさい国はうっちゃって、新しい帝国築くんや。文句あるやつは今のうちに名乗りでぇ。この場でちゃちゃっと殺(さば)いたるさかい」と勝手に宣言。そしてここから、地獄のジャングル・クルーズが始まるのだった。

 粛清を恐れた兵士たちは黙って大将に付いて行くのだが、事あるごとにキレては手下をブチ殺すという沸点低すぎの大将と、迫り来る大自然の猛威とに完全にグロッキー状態である。が、これは映画の演出ではなく、出演者たちの120%素の状態だろう。というのも、アギーレを演じるクラウス・キンスキー自体が、撮影現場においては有名なヒステリック大将なのだ。

 キンスキーはアギーレよろしく、わがまま言いたい放題、共演者及びスタッフ小突きまわし放題の暴君ぶりを発揮し、あげくは刀を振り回して人に怪我を負わせる始末、、、とにもかくにも怒りメーター上げっぱなしの困ったさんなのである。しかし困ったさんはキンスキーだけではない。監督のヘルツォークも、その無謀な演出において、平気で役者を死と隣り合わせにするキピガイぶりだ(今にも沈みそうな、ちゃっちいイカダでの激流下りは、演者たちの顔がガチで引きつっているという、胃がキリキリするような衝撃映像である)。

 本作は、そんな2人のキピガイの激しい摩擦力によって産み落とされた、映画史に残る奇跡である。リアリズムとかドキュメンタリーとかそんなレベルではなく、その先に何があるのか誰も分からないまま、ひたすら苦行を続ける人々の狂気そのものに肉迫した映像美だけが、我々の眼前に現れるのだ。これはもはや映画の領域を超えた、「衝撃映像100連発!!」並みの表層的な美しさである。

 しかしドイツにゃ労働組合ってもんがないのだろうか、、、やはりヒットラーみたいなのが出てくる国は違いますなぁ。

 ところで、同じヘルツォーク&キンスキーのキピガイ・コンビで、イカレた実業家フィツカラルドが未開の山奥にオペラハウスを建てようと暴走する様を描いた「フィツカラルド」('82)という作品も撮っているのだが、この作品では、重量320トンもある本物の船を、人力で引っぱって実際に山越えをさせるという、さらなる狂気に挑んでいる、、、いやはや、キピガイは死んでも直りませんな。


 ちなみに、アギーレもフィツカラルドも実在した人物だそうです。事実は映画よりも「キ」なり




 
沸点低すぎ大将(しかし女優には優しいという意外な面も)。


 
アジる姿も実にパンキッシュ。「ビデオドロームに死を!」(は違うか)。


 
ノスフェラチュなんかも演ってみたり。


 
時にはてふてふと戯れてみたり。


 
リー・ヴァン・クリーフと戯れてみたり。


 
いちばんの仲良しと戯れてみたり。


 
街角で乙にキメてみたり。


 
鬼瓦みたいな顔だけど、どこか憎めない人間味。



 

暴れまくりのキンスキー(実際にエキストラを負傷させたとか、、、よしなさいっての、ほんと)
→ → →
http://www.youtube.com/watch?v=u_wZAGxU_rY

                                                 (2010年3月5日)

 


プロフィール

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ニックネーム
アンジー
性別
血液型
O型
生年月日
1984年5月2日
現住所
東京
自己紹介
政治経済スポーツ苦手。映画音楽本が好き。懐疑派の無神論者を標榜しつつも、テレビの占いなどで不安なことを言われるとかなり気にするタイプ。
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