第59回:「激突!」

地獄のハイウェイ


「激突!」(Duel)
1971年:アメリカ(テレビ映画) 監督:スティーヴン・スピルバーグ


 先日、久々に映画好きの友人と飲んだ。モテない映画オタクが2人して話すことといったら、もちろん映画の話くらいしかない。で、あれやこれやペチャクチャやっていると、どんな名監督・大巨匠といえども、時代の流れに付いていくことはやはり難しい云々という話になった。

 例えばワイルダー、例えばヒッチコック、例えば黒澤、、、いずれも映画史に歴然と輝く名作中の名作を何本も世に放っている大監督ばかりだが、しかしその晩年の作品となると、(作品自体の出来の良し悪しは別として)しっかりと時代に即したものを撮れていたとは言い難い。

 ごく最近の作品ではジョージ・A・ロメロの「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」('08)が話題に上った。「素人がデジカメで撮った映像をつなぎ合わせた」という体の今風なフェイク・ドキュに、御歳70近いベテラン監督が挑戦したまではよかったものの、しかし案の定、デジタル映像やネット環境に対するロメロ御大の感覚には、「あまり突っ込んだところまでは理解してないんだろうなぁ、、、」という印象を受けた。

 この手のデジタル映像やネット環境に関する皮膚感覚的なレベルでの理解力は、やはり日常的にそれを使っている若い世代の監督たちには、到底敵わないというのが正直なところだろう。

 さてさて、そこでじゃあ、ちゃんと時代に即しながら本格的なものを撮り続けている巨匠っているかねぇ、、、という話になったのだが、ここで挙がった名前がスピルバーグ。そうだ、この人がいた。もちろん彼とて全く的を外さないわけではないが、しかし70年代に彗星のごとくデビューして以来、常にハリウッドの第一線で時代に即した傑作・名作を撮り続けて来た才人だ。「CGだろうがアニメだろうが3Dだろうが何でも来い!」という姿勢で今も撮り続けている巨匠はこの人くらいじゃなかろうか。

 とまぁ、そんなこんなで急にこの「激突!」が見たくなった。我らがスピルバーグ監督が25歳の若さで撮った大傑作である。もうどのくらい前に見たかも憶えていないが、しかしながら今見てもやはり凄い。こんなシンプルな素材を、よくぞここまで見事に料理してみせたものだとつくづく感心してしまう。

 主人公はとある平凡な中年男。彼は友人へ貸した金を取り立てに向かうために、自家用車でハイウェイを走っている。途中、前方をノロノロと走る古びた大型トラックを何の気なしに追い越した彼は、その大型トラックから執拗に命をつけ狙われる羽目に、、、ストーリーはたったこれだけ。この極限まで簡素化されたストーリーで90分も引っ張るのである。しかもこれがすこぶる面白いんだから舌を巻く。

 原作・脚本の段階での設定がどうなっているのかは知らないが、本作の面白さをグッと押し上げた一番の要因は、やはりトラック運転手の姿が画面に全く現れないというところにあるだろう。劇中では、運転手の腕と、ウェスタン・ブーツを履いた足が1、2回見える程度である。顔はおろか、声すら全くわからない。つまりは主人公を殺そうとする人間の人格というものがまるでわからないのだ。ほとんど亡霊みたいな存在である。むしろトラックそのものに「人格」があって、その無人トラックが主人公を殺そうとしているのではないかとさえ思えてくる。ここまでくると、もうほとんどシュール・レアリズムの領域だ。

 しかしそこは我らが大衆の味方、スピルバーグである。これを前衛的・実験的な作品にするのではなく、あくまで乾いたリアリズムでもって正真正銘の「娯楽」作品に仕上げている。

 登場人物たちのセリフは至ってシンプルで、隠喩めかした心理描写や風景描写などはほぼ皆無と言っていい。とにかくあらゆるアングルから撮ったキレとスピード感のある見事なカメラワークで、この作品の軸となるチェイス・シーンを演出し、「でっかいトラックに追っかけられる」というその状況だけで見る者の心をラストまでグイグイ引っ張ってゆくのである。しかもこれが職人肌のベテラン監督の仕事ならまだしも、たった25歳の新人監督の仕事なのだから、ただただ驚嘆するばかりだ。

 主人公の男が恐怖のためにどんどん自制心を失ってゆき、助けを求めて入ったハイウェイ沿いのカフェ・レストランでは、被害者であるはずの主人公が完全な「キ印」扱いを受けてしまうというこの不条理感覚が何んとも恐ろしい。敵の姿がわからないので反撃のしようもなく、警察もまるで当てにならない。もしかしたらこの主人公は本当に狂っていて、彼を襲い続ける殺人トラックは彼自身が生み出した幻覚なのではないか、、、などと突拍子もないことまで考えてしまう。

 まぁ、とにもかくにも、たかだか追い越しただけで命を狙われるんだからたまったもんじゃない。殺意の理由がシンプルであればあるほど恐ろしいということを実感させてくれる一本である。ある日突然、思考力の欠如した殺意が自分に向けられたら、、、こう考えただけでも戦々恐々とさせられる。

 ドライバーの皆さん、大型トラックを追い越す際にはくれぐれもご用心を。





この冴えない感じのおっちゃんが我らが主人公。
トラックを追い越しただけなのに、なぜか命をつけ狙われる羽目に、、、。




これが地獄の殺人トラック。見た目はボロいが馬力は最凶。




ぶっ飛ばすぜ、地獄のハイウェイ!!




警察へ電話してたら後ろからドーーーンッ!!!!




で、あんまり手酷くイジメられたもんだから、恐怖のあまり発狂寸前に、、、。



交通ルールは守りませう
→ → → http://www.youtube.com/watch?v=5MtAMc4i8OA


                                                (2011年12月12日)


プロフィール

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ニックネーム
アンジー
性別
血液型
O型
生年月日
1984年5月2日
現住所
東京
自己紹介
政治経済スポーツ苦手。映画音楽本が好き。懐疑派の無神論者を標榜しつつも、テレビの占いなどで不安なことを言われるとかなり気にするタイプ。
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