第52回:「何がジェーンに起ったか?」

そりゃあトンデモないことが起ったんです、、、


「何がジェーンに起ったか?」(What Ever Happened to Baby Jane?)
1962年:アメリカ 監督:ロバート・アルドリッチ


 アルドリッチといえば、<第3回>でご紹介した「北国の帝王」('73)なんかがまさにそうだが、とにかくゴツゴツとした骨っぽい男気映画を撮る監督として知られている。個人的にはバート・ランカスターが老け役で“インディアンを妻に持つインディアン討伐のプロ”という複雑な役どころを演じた「ワイルド・アパッチ」('72)が最高にシビレてしまう一本なのだが、やはり世の定評通り、仮借ない環境で骨太に生きる男たちを描かせたら天下一品だと私も思う。

 荒々しくて男臭い映画を撮る監督としては、サム・ペキンパーも負けず劣らずといったところだが(もちろん私もペキンパーは大好きである)、しかしながら、そんなペキンパーもアルドリッチに比べると、まだまだ登場人物たちに対する“甘さ”みたいなものが見えてしまうような気がする(まぁそれもまたペキンパーの良いところなのだが)。

 もちろんアルドリッチにヒューマニズムがないというわけではなく、ペキンパー同様、登場人物たちに対する愛着や敬意といったものはひしひしと伝わってくる。ただ、苛烈で凶暴ながら、ちゃんと飴も与えるペキンパーに対して、アルドリッチは徹底的に(そしてストイックに)“シゴく”のである。登場人物たちをとにかくシゴいてシゴいてシゴきまくる。意外と“男の弱さ”みたいな部分を意識的に描くペキンパーと違って、アルドリッチの場合は登場人物たちにほとんど泣きごとを言う暇を与えないといった印象だ。

 もちろんどちらが良いとか悪いとか言っているわけではない。アルドリッチの徹底した硬派さというか骨太さというか、とにかくそういった部分が「ハンパなくねぇ?」(語尾上がり)と言いたいのだ。で、そんな「ハンパねぇ」アルドリッチのオジキは、男たちを描く場合のみならず、女たちを描く際にもやっぱり「ハンパねぇ」のである。

 今回ご紹介するのは、そんなオジキが女の愛憎と狂気を真っ向から描いた「ハンパねぇ」一本。しかもその女が老女ときたもんだから、何ともまぁネチッこい上にドロドロ具合も「ハンパねぇ」。一言で言ってしまえば、老女が老女をひたすらいたぶる映画である。私は普段、映画を観て「恐い」と思うことはあまりないのだが、本作は今こうして思い出すだけでも大きい方を漏らしてしまいそうになる。とにかくエグい、とにかくゲスい。思春期に観たらインポになること間違いなしのトラウマ映画だ。

 郊外の古い屋敷に住む老姉妹のブランチ(ジョーン・クロフォード)とジェーン(ベティ・デイヴィス)。妹のジェーンはかつて一世を風靡した天才子役だったが、性格の悪さが仇となって人気は一気に急降下。ハタチ過ぎれば何とやらのご多分に漏れず、ジェーンも年頃の娘になるころにはすっかり忘れられた存在になっていた。

 一方、姉のブランチは、子供のころは控えめで目立たない存在だったが、成長してゆくにつれ次第に女優としての頭角を現し、いつしかジェーンとの立場は逆転。ジェーンは今やすっかり使えない大根女優であったが、大女優である姉の口添えで、どうにか映画に出してもらっているという状態だ。当然、傲慢で自尊心の強いジェーンの心はすさんでゆき、アルコール漬けの生活を送るようになる。

 そんなある日、姉妹の乗った車が自宅の門前で“事故”を起こし、姉のブランチが下半身不随になってしまう。目撃者はなく、世間では、ブランチの成功を妬んだジェーンが故意に起こした“事故”だと(つまりはジェーンがブランチを轢き殺そうとしたのだと)噂された。こうして、ブランチの女優生命は奪われ、同時に、ジェーンの表舞台での人生にも完全に終止符が打たれた。そして時は流れ、年老いた姉妹は今、郊外の古い屋敷で隠居生活を送っているというわけである。

 ジェーンは相変わらず傲慢で自尊心が強く、例の“事故”以降はさらに精神の歪みが酷くなってきている。テレビでブランチ主演の古い映画が再放送され、ブランチがリバイバル的な人気を得るようになると、どす黒いジェラシーの炎をメラメラと燃え上がらせながら、ジェーンは車イス生活のブランチにえげつない虐待を繰り返すようになる。そして、ブランチの食事にブランチがペットとして可愛がっていたインコの死骸を入れたり、天井裏を這いずりまわっていたネズミの死骸を入れたりと、そのえげつなさもだんだんとエスカレートしていく。

 見かねた家政婦がジェーンを施設に入れるようブランチに勧めるが、それをすばやく察したジェーンは、自力で階下へ降りることのできない車イスのブランチを2階の部屋に幽閉してしまう。そしてブランチの部屋から電話を取り上げ、さらにはブランチの味方である家政婦にも適当な嘘で暇を出し、ブランチを完全な支配下に置く。さぁ、こうなるともうジェーンの暴走は止まらない。

 完全に頭の線が切れてしまった老狂女ジェーンは、なんと表舞台へのカムバックを決意し、子供時代にヒットさせたナンバーで再び脚光を浴びるべく、広告でピアニストを募集する。そしてこのキチガイ女の世迷いごとに引っかかったのは、太っちょでマザコンの売れない青年ピアニスト、エドウィン。

 才能はないが、それだって金とチャンスは欲しいのが人情というもの。相手が気の違った老女とはつゆ知らず、浮かれ気分で“恐怖の館”に足を踏み入れるエドウィン。ピンポン押して出て来た老女の姿にちょいとテンションを下げつつも、「金のためならエンヤコラ」とお追従に終始する。

 そしてさっそくレッスン開始。ピエロみたいなベタベタメイクの老女がロリータ・ファッションに身を包み、酒焼けしたダミ声で歌って踊る地獄絵図が展開され、さすがに「おえぇぇ、、、」な気分になるエドウィンだったが、「金のためならエンヤコラ」と踏ん張り、歌い終わったジェーンに向かって心にもない賛辞を贈る。案の定、狂った老女は上機嫌になり、そのキチガイぶりにも拍車がかかる。

 一方、2階へ幽閉されたブランチは、このままでは自分の命が危ないと、ジェーンの外出中に意を決して腕の力だけで電話のある1階まで降り、知人の精神科医に連絡を取る。

 「妹は頭がおかしいんです!! すぐ来て下さい!!」

 最初は半信半疑だった医者も、ブランチのただならぬ様子に「今からすぐ向かいます」と返事をする。助かった!! 、、、と思ったのもつかの間、後ろを振り返ると、なんとそこには既に帰宅していたジェーンが鬼の形相で立っているではないか!!

 絶体絶命とはまさにこのことを言うのだろう。ジェーンは恐怖におののくブランチにつかつかと歩み寄り、なんとハイヒールで顔面を蹴り上げる!! そして倒れ込んだブランチにさらに2発、3発とダメ押しの蹴りをお見舞いする。これはもう恐いなんてもんじゃない。10代の頃からさんざん暴力映画ばかり観てきた私でも、さすがに老女が老女に本気(殺意あり)の蹴りを入れるシーンは初めてだ。いやほんと、何度見てもえげつないなぁ、これは、、、。

 そしてジェーンは息を整えてから、ブランチの声色を真似て精神科医へ電話し、なんとかその場をごまかす。さらにブランチを2階まで運んでベッドに縛り付け(婆さんのくせに力あるなぁ)、今度は完全なる監禁状態にしてしまう。

 しばらくして、ジェーンに暇を出された家政婦が、やはりブランチのことが心配になって恐怖の館へ忍び込む。果敢にも鍵のかかったブランチの部屋のドアの蝶番をハンマーで壊しにかかる家政婦さん。おお、がんばれ、がんばれ!! と思わず身を乗り出す観客(というか私)の応援もむなしく、そこに絶妙のタイミングで現れるキチガイ・ジェーン。

 うわわ! 家政婦さん危うし!! と目を覆う観客(というか私)の心配をよそに、家政婦さんは決して怯まない。さすがのジェーンも根負けしたのか、大人しくブランチの部屋の扉を開ける。するとそこにはベッドに縛り付けられ、すっかり衰弱したブランチが、、、。

 「まぁ、なんてむごいことを、、、」

 絶句する家政婦さんの背後に忍び寄る悪魔の影。ハンマーを手にしたジェーンに気づかない家政婦さん。ブランチは声の限り叫ぶが、テープで口をふさがれているので家政婦さんには届かない。そして振り下ろされる悪魔のハンマー。全ては一瞬の出来事だった。とうとうジェーンは一線を越え、殺人者になってしまたのだ。

 どんどん衰弱してゆくブランチ。完全に“向こう側”へ行ってしまったジェーン。そんな折、酔っ払って悪魔の館へ押し入ったピアニスト、エドウィンが、悪ノリのままジェーンの制止を振り切ってブランチの部屋へ入ってしまう。と、そこには衰弱のためほとんど死にかけているブランチの姿が、、、さすがの酔っ払いもこれにはドン引きし、ブランチを助けるどころか逃げ出してしまう。

 「あの人は絶対、警察にしゃべるわ!!」

 パニック状態に陥り、どうしたらいいのとブランチに泣きつくジェーン。

 「そうだ、パパの好きだった海辺で楽しく暮らすのよ!!」

 もうこっちの頭がどうにかなってしまいそうだ。ジェーンはブランチを車に乗せ、想い出のビーチへ向かう。世間では行方不明だった家政婦さんの遺体が発見され、ジェーンは立派な殺人犯(そして同時に姉の誘拐犯)として指名手配されている。

 燦々と輝く太陽の下、ジェーンは実に幸せそうに砂遊びを楽しんでいる。まるで少女時代に完全に退行してしまったかのようである。その横で、衰弱しきったブランチは、死ぬ前に言っておきたいことがあるとジェーンに話しかける。そしてブランチの口から、2人が全てを失ったあの“事故”の驚愕の真相が語られるのだった、、、。

 全編に渡り、ひたすらジェーンの凶行、キチガイぶりをこれでもかと描いておいて、「実はいちばんの被害者はジェーンだった」という悲しすぎる結末が待っている。女どうし(特に姉妹どうし)の妬みや嫉みほど恐ろしいものはない、ということを直球に描き切るアルドリッチの演出力もさることながら、本作で最も輝いているのは、やはり主演の名女優2人だろう。

 特に老醜をこれでもかとさらけ出し、それを狂気的なレベルにまで持って行ったベティ・デイヴィスの鬼気迫る演技は、映画史に歴然と輝く名演だ。ジェイソンもレザーフェイスも裸足で逃げ出すその凶悪ぶりは、一度見たら決して忘れることのできない衝撃度である。

 “過去の栄光にすがって生きるがゆえに、シビアな現実を受け入れることができず、あげく狂気的な領域に足を踏み入れてしまう元大物女優”という同じような役どころでは、「サンセット大通り」('50)におけるグロリア・スワンソンもそれはそれは鬼気迫る見事な名演であったが、こと“老醜”と“凶悪さ”という点においては、こちらのベティ・デイヴィスの方にやはり軍配が上がると私は思う。本作におけるベティ・デイヴィスの演技を超えるような、ベテラン女優のブッ飛んだ演技というものを、私は未だに見たことがない。

 しかしまぁ、実際に過去の栄光を持つ年老いた女優が、映画の中で過去の栄光にすがって生きる年老いた女優を演じるというのは、一体どんな気持ちなのだろうか。

 こういうシビアすぎるセルフ・パロディーを体当たり(というかほとんど捨て身)で演じきる女優魂には、ただただ恐れ入るばかりである。女の栄光、女の挫折、女の嫉妬、女の狂気、、、考えてみれば、「ブラック・スワン」(2011)なんかもまさにこれを直球に描いているのだ。

 今も昔も、女の恐さは変わらないということか、、、。


 


かつては一世を風靡した天才子役ベイビー・ジェーン。
ベイビー・ジェーン人形まで作られるほどの人気ぶり。


そして時は残酷に過ぎゆき、
老ベイビー・ジェーンは狂気の闇へと堕ちてゆく、、、エグイなぁ。


そんなジェーンに姉のブランチは徹底的にいたぶられる。


老人虐待レシピ。手乗りインコのトマト添え。おえぇ、、、。


太陽輝く浜辺での驚愕のラスト。


こちらは若かりし頃のジョーン・クロフォード。
めちゃくちゃハクイやんけ!!


こちらは若かりし頃のベティ・デイヴィス。
絶妙な小悪魔具合やんけ!!


 

ロリータ・ファッションの狂った老女が歌って踊る地獄絵図!!
→ → → http://www.youtube.com/watch?v=--RI7tlWuaM&feature=related

これもある意味セルフ・パロディー?? しかしここまでやりきるとカッコイイですな。
→ → → http://www.youtube.com/watch?v=WIkwjXY7Nvw&NR=1

これ作った人ゴイスーです。
→ → → http://www.youtube.com/watch?v=qS3UaDf0APA

 

(2011年10月21日)


プロフィール

プロフィール画像
ニックネーム
アンジー
性別
血液型
O型
生年月日
1984年5月2日
現住所
東京
自己紹介
政治・経済・スポーツ苦手。映画・音楽・本が好き。懐疑派の無神論者を標榜しつつも、テレビの占いなどで不安なことを言われるとかなり気にするタイプ。
QRコード
携帯用QRコード
アクセス数
ページビュー数
[無料でホームページを作成] [通報・削除依頼]