第1回:「バルスーズ」

過激でお茶目、無残で切ない<ピカレスク・ニュー・ポップ>


「バルスーズ」(Les Valseuses)
1974年:フランス 監督:ベルトラン・ブリエ

 エロくて卑怯で暴力的で、いつも何かから逃げ回っていて、端から見れば時間の浪費以外の何ものでもない“自由”を振りかざしながら反抗的な態度を貫く嫌われ者、、、でもどこか憎めない愛らしさと切なさを持ち合わせている。そんな刹那的・退廃的な若者を描いた青春映画は古今東西、星の数ほど存在するが、哀しいことに最近では、この手の映画の過激さに驚くということもあまりなくなってしまった。

 しかし先日、人から借りて何気なく観た本作「バルスーズ」に、そんな青春映画不感症の横っ面を思い切り張り飛ばされた。その衝撃に鼻血どころか脳しょうまで飛び散らかしてしまったほどだ。もう、すごいの何のって、「バルスーズ」に比べたら、「時計じかけのオレンジ」もおとぎ話みたいなもんだし、アメリカン・ニューシネマなんて牧歌的もいいとこだ。今までこんな凄い映画を知らなかったなんて、、、。

 話は至ってシンプルだ。職に付かずブラブラしながら、万引き・かっぱらい・自転車泥棒・自動車泥棒・無賃乗車・不法侵入・軽めの婦女暴行エトセトラ、エトセトラ、、、と無為な日々を送っている20代の悪友コンビが、いくつかの事件に巻き込まれながら当てどなく彷徨い続けるロード・ムービーである。まぁ、これだけなら、そこいらに転がっている青春映画と大差ない代物と言えるが、その演出も映像センスも音楽も、そして各エピソードは奇抜でありながら、全体的には最後まで青春映画としての普遍性を保っているストーリー・テリングも、全てにおいて冴え渡っている。

 まずオープニングからして素晴らしい。

 寂れたアパートが建ち並ぶ中を、急ぎ足で歩く太ったオバハン。その後を追う主人公2人(1人はなぜかスーパーの買い物用カートに乗っている)。半泣きで家路を急ぐオバハンの尻を触ったりしてビビらせながら、2人はオバハンをどんどん追い詰めていく。そしてとうとう追い詰められたオバハンは、助けを求めながら主人公2人に実に嫌ぁ〜な感じでなぶられる。恐怖のどん底で身もだえするオバハン。ニヤニヤ、ネチネチ責める主人公2人。オバハンの運命やいかに!?

 と、そこで場面がパッと変わって、主人公2人が怒り狂った住民たちに追いかけられている。主人公2人はオバハンから盗ったハンドバッグでラグビーごっこをしながら猛ダッシュで逃げていく。バックにはジャズ・バイオリニスト、ステファン・グラッペリの軽快な音楽が流れる(私の拙い文章力では伝わらないかもしれないが、とにかくこういった場面転換に用いるジャンプ・カットが絶妙で、その後も全篇に渡って似たようなジャンプ・カットが多用され、それが映画全体のリズムを作っている)。

 さて、そんな主人公2人の悪行を実に嫌ぁ〜なネチっこさで描きつつも、背景は常に美しいのだから、これまた妙な気分にさせられる。街角であれ、田舎道であれ、海辺であれ、とにかく出てくるシーンの全てが絵葉書のような美しさなのだ。主人公2人がただ道をブラブラ歩いているだけの画でも、とにかくキマっている。

 そして何と言っても映画の中盤、大女優ジャンヌ・モローが登場すると、映画全体の空気・質感がガラリと変わって、これもまた素晴らしい。悪辣で下卑た若者2人の暴走を軽妙に描いていた前半から一転、哀調を帯びた陰影が映画全体を覆い始める。

 ジャンヌ・モロー扮する出所したての熟女に主人公の1人(ジェラール・ドパルデュー)が恋をし、最初は「あんなババァどこがいいんだ?」なんて言っていた片割れ(パトリック・ドヴェール)も次第にその魅力に引き寄せられる。最初は小悪党2人を警戒していた熟女も、2人の見せる優しさに心をひらいてゆく。人気のない海辺のレストランで3人が食事する様を、レストランの外から撮ったシーンなどは、海風の音だけが聞こえる何とも言えない切ない美しさに胸が締め付けられる。

 圧巻は、片田舎の道に急停車した車中での濃厚すぎる3P(この背景もまた鳥肌が立つほど美しい)。かなり老けてはいるが、さすがはジャンヌ・モロー、恐ろしくなるほどの色気で若造2人を激しく受け入れる。このへんの演出力は今村昌平のような骨太な凄みを感じる。

 そして後半はまた前半同様、どこまでが本気でどこまでが冗談かわからない軽妙なタッチに戻り、人殺しの片棒を担がされたり、16歳の処女を優しく奪ったりしつつ、悪友2人の当てどない旅はどこまでも続くのである。10代の頃に観てガッカリだった「トレイン・スポッティング」には、ズバリこういう内容を期待してたんだよなぁ、、、。

 



本文では書ききれませんでしたが、ミウ=ミウ扮する“不感症の恋人”もキャワイイです。



偶然乗り合わせた赤ん坊の母親を脅してイタズラする2人。
このシーン、実に嫌ぁ〜な仕上がりになっております。



ヒッチハイクするくらいなら車泥棒した方が早いと悟るご一行。


 
盗んだチャリでツール・ド・あぜ道。



 

映画史上に残るドイヒーなオープニング
→ → →
http://www.youtube.com/watch?v=5q_u9FfbxB4

                                                 (2009年6月21日)


プロフィール

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ニックネーム
アンジー
性別
血液型
O型
生年月日
1984年5月2日
現住所
東京
自己紹介
政治経済スポーツ苦手。映画音楽本が好き。懐疑派の無神論者を標榜しつつも、テレビの占いなどで不安なことを言われるとかなり気にするタイプ。
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